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医学部の願書とは? 何を求められる?
多くの私立大学の医学部の願書には「志望理由」を書く欄があります。
大学によって字数は様々ですが、短いものは100字程度、長いものは25行くらい(600字程度)で、400字程度のものが多いです。「志望理由」の他にも、大学によって求められる記載事項は異なります。
【例】
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- 「自己PR」を求める大学:
川崎医大、獨協医大、北里大、国際医療福祉大、女子医大
- 「自己PR」を求める大学:
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- 「活動記録」を求める大学:
産業医大、昭和大
- 「活動記録」を求める大学:
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- 「将来の希望」や「どんな医師になりたいか」を求める大学:
日本医大、福岡大
- 「将来の希望」や「どんな医師になりたいか」を求める大学:
- 「主体性・協働性・多様性に関する活動記録」を求める大学:
日本大、慶應大、東海大
他にも興味深いところで、獨協医大は「20年後の私」の記載を求めます。
本学志望動機の書き方のポイント
多くの願書にある「志望動機」ですが、医師志望動機と本学志望動機の両方について書くのが普通です。両者の割合は半々くらい、極端にどちらかに偏らなければ割合は気にしなくて良いと思います。
著名人の言葉を引用することで説得力が増す
内容ですが、医師志望動機に、ただ「人の命を救いたいから」とか、「病気や怪我を治したいから」としか書いていないものは評価が低いと思います。医師という職業に就くことは、自分の生き方においてどういう意味を持つのか、など人生観、職業観を組み入れると説得力が増します。
なかなか自分の考えを書くのは難しいでしょうから, 著名人の言葉を引用するのも一案です。以下に例をご紹介します。
“人は、自身の興味関心と社会的要請が合致したとき、生きがいを得られる”
『生きがいについて』神谷美恵子(医師/文筆家・翻訳家)
“自分の環境や能力は社会からの借り物であるから、それらは社会に返さなければならない”
ウィリアムW.メイヨー(医師/化学者)
こういった著名人の言葉に感銘を受けて医師という職業を選択したのような使い方もあります。
親が医師であることを書いても良いか
親が医師であることも大きな要因ですから、当然書いてOKですが、それだけでは動機が薄いと思われます。きっかけ程度にしておき、しっかりと自分の考えを書きましょう。志望理由に将来の展望を加えるのも良いと思います。自分の興味のある診療科や医療現場、研究対象などを具体的な理由と共に書くことで説得力は高まります。
医師という「職業」について考えてみよう
ここで, 少し話はそれますが, 職業観について考えてみたいと思います。そもそも職業とはなんでしょうか。もちろん、生活の糧を得るための手段であることは間違いありませんが、ただお金を稼ぐだけの手段として職業を捉えるのでは味気ない人生となってしまいそうです。因みに、英語ではjobとかoccupation、vocation、callingなどの語がそれにあたります。公的な書類などではoccupationが使われていますが, occupy「〜を占める」の名詞形です。
仮に20歳で職業に就いたとすると引退する70歳までの50年間を職業が「占める」わけですから「人生の大半を占めるもの」とすれば納得いく言葉です。さらに、時間だけでなく、「自己(=アイデンティティ)」を「占める」と考えると、もっと深みが出ます。自分は何者か?という問いに対して, まずは職業を答えることが多いでしょう。
そして, ある一定の専門知識と技能を備えた人の職業はprofessional「専門職」となります。実は、さらにprofessionという言葉があります。これもprofessという動詞の派生語なのですが、「〜を告白する」という意味です。
さて、誰が何を「告白」するのでしょうか。
これは、人間が、神に対して「信仰を告白」し、本来神のなしたる業を代わりにさせていただく、という意味なのです。もちろんキリスト教文化圏での解釈ですが、元々は聖職者、法律家、そして医師という職業に用いられていたそうです。
神の仕事を代わりにするわけですから、自己の欲望や趣味で行うものではないわけです。そういうわけで、これらの職業に就く人は「金儲け」をしてはいけない、ということになります。
もっとも今やそんなことを考えて医師という職業を選ぶ人は少ないでしょうが、医師という職業はいわゆる「聖職」の一つだったわけです。
本学志望理由を書く前に確認しておくべきこと
さて、話を戻して、次は「本学志望理由」です。
本学志望を書く前に確認しておくべきことをご紹介します。
志望校の「建学の精神」を調べる
私立大学のほとんどは建学者の理念、つまり、「建学の精神」に基づき開学し、運営されています。大学のパンフレットやホームページには必ず明記されています。願書に書くかどうかは別として、当該大学の学祖の理念については確認しておくべきです(面接で聞かれることも多いです)。
願書に書くかどうかは別として, 当該大学の学祖の理念については確認しておくべきです(面接で聞かれることも多いです)。実際, 東京女子医科大学の推薦試験では必ずと言っていいほど聞かれます。
志望校の「アドミッションポリシー」を読む
そして、「アドミッション・ポリシー」もよく読んでおく必要があります。どの大学も似たり寄ったりなので確認程度で構いませんし、願書にことさら書く必要もないのですが、大切なポリシーであることに変わりはありません。
志望校の「研究」「臨床」「教育」について調べる
医学部の使命であり存在理由ともなっている、「研究」「臨床」「教育」の3つについて調べましょう。これらの項目から自分が魅力的だと考える項目を見つけ出し、志望理由にしていくのが常套手段です。
さらに加えるとすれば、「環境」「施設・設備」「歴史・伝統」「国際性」などからその大学の特長を探し出すのも良いと思います。
著名な医学者・臨床家の名前を挙げるのがおすすめできない理由
一つ注意したいことは, 著名な医学者や臨床家の名前を挙げて「〇〇先生がいるから」という志望理由はお勧めできません。
医学医療の功績者は有名な人ばかりではなく、人知れず病める人の支えとなったり, 地道な研究に勤しむ人の方が断然多いわけですし、試験の際の面接官も同じ医師または研究者であることを考えれば、個人名を挙げて自分の憧れだとか尊敬しているなどと書くこと自体、失礼にあたる可能性もあります。
「主体性」「協働性」「多様性」の考えを求められた場合の対処法
慶應大学, 日本大学, 東海大学の願書には「主体性」「協働性」「多様性」についての考えや, 自身の活動を書かせる欄があります。
大抵は, ボランティアや探究活動, 国際交流などを挙げるのでしょうが, それらについて書かせることで大学は何を望んでいるのでしょうか。
「主体性」:主体性が「ある」「ない」の意味を考えてみる
おそらく、 「主体性」があるということはどういう意味を持つか、逆に「主体性」がないとどうしてダメなのか、を理解していることが大切だと思います。「主体性」があると、内発的動機によって行動するので、自ら責任を持って行動する態度を取ることができます。仮に失敗しても他人のせいにすることはなく、失敗の原因を深掘りできます。
医療チームや研究チームにおいてリーダシップをとることが多い医師にとって、「主体性」は非常に重要な性質であり態度だと思われます。
「協働性」:医療はチームで行われることを理解する
臨床も研究もチームで行われることを前提にすれば、当然「協働性」が求められます。部活動や委員会などにおいて他者と協働した経験があればそれを挙げて自己アピールすることはできます。
その上で大切なのは、チームで行動することの意義は、お互いの弱点をカバーし合うことができる点です。医療の現場ではお互いの専門領域の隙間を埋めることができる点ということに繋がります。
「多様性」:国際化する社会における医師に必要な能力
「多様性」も, 生物においての環境適応が生存と種の存続のためには不可欠であるのと同様、集団行動や集団生活において重要な要素です。
高齢化が進み慢性疾患やがんを患う人が増えている現代社会において、個人の価値観ひいては人生観, 死生観も多様です。
さらに、国際化が進み多様な文化的背景を持つ患者を診る機会も増えると同時に、医療現場内においても多様なスタッフと協働しなければなりません。
広い視野と柔軟な思考で対応する能力が求められているのだと思います。これらのことをしっかりと理解していることを自分の体験や学習に組み込むことができれば評価は高まるはずです。
東京女子医科大学の願書の書き方のポイント
特徴的な願書の一つに東京女子医科大学の願書があります。長年に渡り、「志望理由書」400字と「自己評価書」400字を書かなければなりません。私も、「自己評価書」には何を書けばよいか、という質問を受けることが多いです。
自己評価は客観性をもって書く
一つ目のヒントは、「自己評価」ですから、客観性を持って自己を評価した内容を記載することです。長所はもちろん、短所も自己評価として挙げてしまう。
医師に必要な資質に「メタ認知能力」と呼ばれるものがありますが、その一つとしての自己分析力です。
随分前のことになりますが、「自分には人に誇れる能力などありません」と書き出した生徒がいましたが、結果的には合格していました。
大学側がどのようにそれを「評価」したかは分かりませんが、一つの手だと思います。
創立者・吉岡彌生の「建学の精神」を活用する
とはいえ、自分の短所を挙げてしまうのは憚られるので、もう少し無難な文章にしたいなら、女子医大の創立者である吉岡彌生の建学の精神を利用する手があります。
女子医大の建学の精神は、
「医学の蘊奥(うんおう)を究め兼ねて人格を陶冶(とうや)し, 社会に貢献する女性医人を育成する」
上記の通りです。
医学の蘊奥を究めるためには探究心が、人格を陶冶するには受験勉強だけでない幅広い学習や体験、読書などが必要となるでしょう。
女子医大が自立した女性医人を輩出することを目的に建学されたことから、女性として社会貢献することの意義を自己の体験から見出すことも一案です。
いずれにしても、美辞麗句を並べた文章を書くことではなく、あくまでも具体的項目を挙げることが重要です。できるだけ複数の項目(主体性、協働性、多様性、はここにおいてもヒントになります)での自己評価をすることがポイントです。
獨協医科大学の願書の書き方のポイント
獨協医科大学の「20年後の私」は何を書くべきでしょうか。
20年後を年齢だけで捉えると40歳前後になっている人が大半ですが、あくまで医師という職業に就いていての想定です。
ヒントになるのは、順調にいけば医学部で6年、初期研修で2年、後期研修で2年、ここでようやく10年経ちます。10年後にやっと自分の専門分野が確定して医師として独り立ちを始めるわけです。中にはその後留学したり、学位を取ったりするでしょう。
そこからさらに10年経ったのが20年後です。自分の専門がある程度決まった後の10年ですから、「一人前の医師」となるころですね。また、社会情勢がどのように変化しているかを想像するのも一案でしょう(あまりSFチックな空想を語るのは危険ですが)。
あなたはどんな自分を想像していますか?
願書を書く際の注意点、NG例
- ① 願書に書いた内容は、面接でも質問されることが多い
- ② 完成した願書は必ずコピーをとっておく
- ③ 記載内容と矛盾する事実が判明した場合は何かしらのお咎めがある
- ④ 多少の誇張はあっても決して嘘は書かない