慶應義塾大学医学部物理の傾向と対策!(D組講師 三宅 唯先生)

2025.02.01
慶應義塾大学医学部物理の傾向と対策!(D組講師 三宅 唯先生)

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慶應義塾大学医学部物理(2024年度/一般)-入試情報

出題形式

答えのみ記述 67% 論述 33%

試験時間

理科2科120分(物理:60分)

難度(5段階)

3.6(やや難しい)

分量(必要時間)

70分(やや多い)

合格に要する正答率予想

63%

大問数

3問

出題内容

第1問:小問集合
第2問:RLC回路・電気振動
第3問:ニュートンビーズ

求められているもの

幅広い知識を持っていることは前提として,未知の現象にも興味を持って考察しようとする研究者に必要な適性をもつ学生を求めていると考えられる。
設問ごとにテーマが一貫しており、目標に向かう流れがある。速やかなテーマの把握が鍵となる。
概ね法則の適用に関する応用的な出題である。物理計算への慣れが必要となる。

今月は医学部専門予備校D組物理科講師の三宅 唯先生に慶應義塾大学物理の入試対策をお聞きしました。

慶應義塾大学医学部の物理は他大学に比類のない個性的な出題傾向

三宅 唯先生よろしくお願いいたします。早速ですが近年の慶應義塾大学の物理には特別な傾向はありますか。

かなり強力な傾向があります。ここで語りつくせるかどうかが不安なぐらいです。慶應義塾大学医学部物理の傾向を語れと言われたら,具体的な事例を含めて語れば最低でも2時間ぐらいかかりそうです。なかなかの講演会になってしまいます。

一部のみならず「総じて」という観点でいえば,同じような出題傾向の大学は少なくとも日本国内には存在しません。比類なき大学ということです。東京大学とセットで受験される方が多いですが,東京大学の方がよっぽど普通です。ですから「慶應義塾大学医学部に特化した特別な対策をすることで合格できる」などということは恐らく不可能です。そのようなことをうたっている講座があるとすれば控えめに言っても詐欺です。

ちょっと慶應医から離れます。一般に私立医学部と言えば入学しやすいと言われている大学でも,問題自体は易しくても分量が多いことが特徴です。定番,典型の解法を速やかに思いつくこと,その解法を誤りなくかつ速やかに実行すること,これらはおそらく臨床医において必要な素養なのでしょう。難問にじっくり取り組む能力よりも,すでによく知られている事例について正確に判断できる能力を求めているのです。

しかし,慶應義塾大学医学部の入試問題は大きく違います。典型的な問題だけではありません。といいますか,合否を分かつのは「典型的な問題を確実に処理する」部分ではなく,それはそれで当たり前として「見たことのない難問に対応する」部分です。慶應義塾大学医学部は典型問題の出題率が極めて低い稀有な大学です。他の大学では出題されたことのない,入試的にはかなり前衛的な出題も存在します。

比較的,経験物理よりも数理物理の方に力を入れている出題傾向ですが,極端に高度な技術を要する処理を求める傾向にはありません。煩雑な計算を求める問題は多数出題されていますが,東京医科歯科大学ほど理系数学方面に傾倒していませんし,京都府立医科大学や滋賀医科大学のように高校範囲外の現象を工夫した設問誘導によってどうにか大学入試に流し込んでいるような雰囲気もありません。もちろん東京慈恵会医科大学のように「高校生は相対性原理ぐらい理解してて当たり前」のような「高校指導要領とは一体何だったのか」を再考させられるような刺激的な出題もありません。そこまで高度な方向に傾倒しなくても自然に高校物理を出題すれば自然に難しくなるのだ,という主張があるのかもしれません。

記憶しているだけでは知性とはいわない

慶應義塾大学医学部の物理の特徴を,具体例を織り交ぜて詳しく教えていただけますか。

まず,慶應義塾大学医学部の物理の第1問では長年,小問集合が出題されています。ここでは易しくて典型的な問題が並んでおり…と言いたいところですがそんなことはありません。

例えば,次のような知識問題(簡潔に要約しています)。

  • 人間の可聴域を答えよ(2022,2024)
  • LEDは何の略か(2015)
  • 土星型モデルの考案者を答えよ(2022)
  • 電子の反粒子を利用した医療機器を答えよ(2009)

これらの問題は日頃からアンテナ広く,知的好奇心をもって物理に取り組んでいるかどうかを試しています。決して高校教科書を逸脱しているものではありませんが、出題するところが他の大学と違います。出題の視点が極めて個性的なのです。医学部ということもあって医療に関する知識問題ばかりに目が行ってしまいますが,決してそれだけではありません。

また次のような工夫を要する計算問題。

  • 地上に存在する全空気の分子数を答えよ(2023)
  • この試験会場内の空気の密度を答えよ(2022)

これらの問題は標準的な受験生が知っている数値を組み合わせて求めることができるのですが,いきなり問われると「え?覚えてないし!」と驚いてしまいそうな問題です。「本当の知とは,ただ多くを覚えていることをいうのではなく,それらを組み合わせて使いこなす能力までをいうのだ」という慶医ならではの主張を伴っています。私大医学部受験定番の小問集合という出題カテゴリーとはいえ,慶應は他の大学とは異なり,どれもあまり見ないような問題ばかりなのです。

続いて,第2問と第3問の大問でも典型的な問題は少ないです。与えられたヒントを発展させて取り組む問題や,解答のみならず理由や考えを述べさせる問題など,物理概念が正確に把握されかつ整然と体系化されていないと答えにくい出題が頻発します。特に珍しい出題としては「提示した仮説の問題点を挙げて考察せよ」というものです。ときには提示された仮説やモデルがすべて間違っており,それまでに行った計算では実験事実を説明することができない問題も存在します(2024ニュートンビーズ)。これは出題ミスではありません。慶應はわかっていて出題しているのです。受験生に高校物理の限界を見せるものであり,かつ「物理は答えが出せるように他人が作った問題への最適解を選ぶという営みではない」ということを主張しているのです。探求をやめることさえなければこれからも物理は新しい世界を見せてくれるということ,間違った仮説は即時無意味だということではなくて,考える続けること自体が物理学という営みであり,その延長に不思議な現象を説明するための科学の大きな飛躍があるかもしれないということ,そういったことを慶應は伝えているのだと思います。逆に言えば「なーんだ,結局答えはないのかよ,意味ないじゃん。」と思うような人間をフィルタリングしている試験とも言えます。

基礎を考えることを諦める受験生をフィルタリングしている

三宅 唯先生としては,その傾向にはどういった大学の意図が現れていると想像されますか。

このような出題傾向において慶應義塾大学医学部は「問題をたくさん解いて物理計算に慣れただけでは本学に入学するにあたり不足している」と言っているのです。時間をかけて獲得した確かな科学の視点によって,見たことのないような現象でも腰を据えて分析することができる学生を求めているのです。「考えるのが難しいから」とか「理解するのに時間がかかるから」といって「解き方を覚える作業だけをしてきた受験生」は慶應義塾大学医学部に相応しくないということです。慶應義塾大学医学部は「時間をかけて1つ1つ科学の基礎を理解しようと努めてきた受験生」を求めています。

ここでいう基礎とは社会通念上の基礎とは意味合いが大きく異なります。物理の人間がいう「基礎」です。すなわち,現象や理論を構成するシンプルな構成要素のことです。これを理解するためには「うんうん」とうなって「ああでもない,こうでもない」と考える時間が必要であり,誰にとっても非常に難しいことです。逆に「応用」とはすでによく知られている法則の運用になりますから,経験がものをいうことであり,即時易しいと言えるものではありませんが,多くの人間がとっつきやすいものです。

求められているのは自分の中に確からしい基礎を構築することです。ほんの少しの基礎から多くのことを説明できるのが物理です。その意味で,慶應義塾大学医学部は物理を物理らしく問うている数少ない大学のうちの一つなのです。こういった鋭いメッセージ性のある出題をするのが理学部物理学科でなく医学部医学科であることが個人的には残念です。こういった特色入試に興味がある理学部物理学科は慶應義塾大学医学部を見習ってほしいとさえ思います。

慶應義塾大学医学部の受験に奇跡の大逆転などない

現在,まだ合格水準に足りていない受験生が慶應義塾大学医学部の合格水準に達するための努力としてはどういったものが考えられますか。

前述のような慶應義塾大学医学部の出題傾向からして「慶應の小問集合の対策をしてくれ」と言われてもこちらとしては極めて難しいものです。「日頃から科学に興味をもって調べたり研究したりしてください。そして,教科書に書いてあることは発展事項も含めてすべて把握しておいてください。それに加えて物理学に興味をもって科学雑誌を読んだりしていると有効です。」としか言えません。慶應義塾大学医学部において即日得点源になるような対策などは存在しないのです。

入試は物理だけでは決まらないので断定することはできませんが,慶應義塾大学医学部の物理で十分な得点をとるためには,一朝一夕の対策は功を奏しません。奇跡の大逆転などありません。幼いころから科学に興味を持ち,日頃から科学的に物事をとらえてきたかどうかが要になります。もちろんそれだけでは足りません。その上に,問題演習を積み,数理物理の記述に慣れることを要します。物理で高得点をとるのは誰にとっても易しいことではありません。 今,足りないのが解答速度だけだという方には十分に勝算があります。典型的な問題演習を短期集中的にこなすことで解答速度や解答精度を向上させることができます。

そうでない方,すなわち,そもそも慶應の問題についていくことができない方は,厳しい戦いとなりますが慶應義塾大学医学部の過去問にゆっくりと真剣に取り組んでみてください。「急いで解いてわからなかったらすぐに答えを見る」というサイクルをやめてください。すぐに諦めるような精神を自分の中から徹底的に排除してください。学習コスパを考えて難しい問題を切り捨てるようなことをすればするほど,慶應義塾大学医学部が求める学生像から,すなわち合格から遠のいていることを理解してください。もちろん時間がかかります。試験までには間に合わないかもしれません。それでも諦めることなく一歩でも近づこうと全力を尽くしてください。そのような鋼のメンタリティはあらゆる大学受験において有効であることのみならず,それ以降の人生においても大きな価値を生むでしょう。

学問への強い好奇心が結果として記憶力を生む

これまで慶應義塾大学医学部に合格してきた受験生にはどういった特徴がありましたか。

誰がどこを受けてその合否がどうだったかを能動的に把握することをしていないので,合格後に報告しに来てくれた数少ない方々が母集団であり,統計としては全く意味がないですが,学んだことをよく身につける子ばかりでしたね。講義内容を尋常でないほど細かくよく覚えている珍しい子ばかりでした。よほど物理に興味があるのでしょうね。でもどうも聞いてみると物理だけじゃなくて多くの教科に興味があり,結果として多くの科目で「物覚えが良い子」であったみたいです。強い好奇心が記憶力を形成します。さらに講義を鵜呑みにせず「体系に矛盾がないか」「ここが変わったら他はどう変わるか」と試行錯誤しながら聴講していたようです。講義後にあまり質問をする方はいませんでしたが,たまにしてくれる質問や受講の感想に,本当に高校生なのかなというような考察の鋭さを含んでいた印象があります。

入試では気持ちを切り替えて,あまり気張りすぎないで

慶應義塾大学医学部の入試当日に気を付けてほしい点はありますか。

あまり自分事だと気張りすぎないで気楽に挑んでください。半分他人事だと思うくらいに,斜め上から自分を眺めるようにして受験してください。全ての問題に腰を据えてじっくり取り組むような十分な時間はありません。試験当日はある程度,得点効率を考えて受験しましょう。学んでいる過程とは違う姿勢で挑みましょう。学習過程では「100点以外は0点と同じ!」ぐらいの気持ちでいいですが,試験会場では「半分取れたらたいしたものだし60点取れたらもう神!」ぐらいの気持ちでいきましょう。実際,満点は必要ないですし。大丈夫。とりあえずいいから元気に試験会場に向かいましょう。ケセラセラです。どうにかなりますよ。

Que sera, sera Whatever will be, will beですね。

焦ることなく,未来にはばたく貴方に相応しい学びを

いよいよ直前期を迎えラストスパートに入る受験生に熱いメッセージをお願いします。

2025年2月9日の慶應義塾大学医学部の入試に向けて,また2月25日,26日の国立2次試験に向けて,あるいはその他の私立大学や国立後期に向けて勉強に励んでいる受験生たち,慌てずに最後まで全力で目の前のことに取り組んでください。いつでもどんな問題にも謙虚に学ぶ姿勢を貫き通してください。つまらない問題などありません。何かを見落としていないか,深堀した考察が不足していないかを常に検証していってください。この時期にあっても,解答速度より解答精度を重視して丁寧に学習を進めてください。諦めなければきっと手に入ります。解けない問題などありません。そこには諦めている自分がいるだけです。難しいな,つらいな,と思ったとしたらそれは貴方の成長のチャンスです。そこで意地を張ってしっかりわかるまで考え続けてください。難しいからこそ価値があるのです。学びがあるのです。成長があるのです。貴方が手に入れるものとして貴方に相応しい価値があるのです。今,貴方が諦めずに考え続けているその時間が,合格よりもずっと価値あるものだとわかるのはもう少し未来のことかもしれませんが。

三宅先生の心をうった最高の名作アニメとは

最後に三宅 唯先生の心の名作を教えてください。

フランダースの犬


世界名作劇場!著作権法上の問題でこのようなイラストになってしまいましたが,これでもかなり攻めたつもりです。攻めすぎて慶應義塾大学医学部のように前衛的なイラストとなりました。ギリギリまで諦めずに攻め続ける。三宅先生のアドバイスにインスピレーションを受けてギリギリのデザインで勝負しました。
さて,大学入学共通テストや一部の私大の入試は終わりましたがまだまだこれからが本番です!いえ,いつだって本番です!三宅先生のおっしゃるように「自分に相応しい最善を尽くす」というプライドは大切なものだと思います。学ぶことはいつだって自分への蓄財ですね!三宅先生の熱意あふれるメッセージは,受験生のみならず全ての人への応援だと感じました。三宅 唯先生ありがとうございました。引き続きD組の医学部受験生たちにも熱意あるご指導をよろしくお願いいたします。

医学部専門予備校D組では、現在の成績に関係なく、12人以内の少人数クラスでこのような専門性の高い優秀な講師の対面講義を受けることができます。少人数制だからこそ可能な、きめ細やかな指導と、質疑応答の時間を豊富に設けることで、生徒一人ひとりの理解度を深め、着実に実力アップを目指します。さらに、アットホームな雰囲気の中で、周りの生徒と切磋琢磨しながら学ぶことができるのもD組の魅力です。

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